ターゲットについて考える - undefined
この記事はBoard Game Design Advent Calendar 2018の16日目です。
昨日は番次郎さん(@hyacper)の「評価数ゼロのデザイン秘話-小冊子に隠されたデザインのあれこれ-」でした。
本日[1]は遊戯部すずき組のクマの方、MooMoo-yaがゲーム制作時に意識しているプレイヤー像について書いてみたいと思います。
背景というか遊戯部すずき組の紹介
遊戯部すずき組はITをネタにしたゲームを2人で制作しているサークルです。代表作とさせていただいているのは以下の2作です。
- COLOR CODE
- WEBで使うカラーコードを読み上げて色を取るカラーコードかるた
- Fat Project
- 要件定義をモチーフとしたブラックジャック風カードゲーム
私 MooMoo-ya はこのうち Fat Project を制作しました。
Fat Project とは
着想
Fat Projectは要件定義(というより予算見積もり)における「プロジェクト初期にこのくらいいけるだろうと見積もったボリュームは超過する」という感覚とブラックジャックでの「もう1枚いけるかどうか」という感覚に近しいものを感じ、これがゲームの形でトレーニングできないだろうかと思いついたことが着想となっています。
ゲームシステム面
トランプのブラックジャックをベースとして以下の差異をつけています。
- カード枚数を減らして確率空間を小さくした
- 点数計算時に他プレイヤー手札に影響を受けるようにした
- カードを引く先を山札だけではなく、見せ札からも引けるようにした
- カードの点数に偏りをつけて理不尽な展開が起きるようにした
ストーリー面(フレーバー)
- プレイヤー = ITプロジェクトマネージャー
- 勝利プレイヤーはシステムを受注できる
- 手札をシステム要件(だけではないですが)に見立てて「手札が多い=機能が多い=顧客が喜ぶ」
- 多すぎる手札(機能)はデスマーチ案件になってしまう
といったストーリー設定にしています。
プレイヤー像
ゲーム制作時は着想からどういったゲームにしていくかが悩みどころだと思いますが、大きく分けて
- 幅広い人に受け入れられる作品
- 一部の人にのみ受け入れられる作品
の2択になるかと思います。
前者はオセロや将棋などのアブストラクトの類や、ファンタジー、SFなどの広く受け入れられているモチーフのものが該当すると思います。もちろん前者のほうが受け入れてもらえるプレイヤーの母数は当然大きいと思いますが、それ以上に競合するゲームタイトル数が段違いに多いです。ゲーム制作の経験が浅い私は前者の選択は取ることができず後者を選択することにしました。
後者の中でも程度の加減があります。着想の内容からビジネスものになると思いますが、近年増えてきている残業物、社畜物と呼ばれるようなゲーム群は後者の中でも特定の業種に絞らずターゲットを広めにとっていると言えるでしょう。ただし、今回は着想の部分にも記述しましたが、ITプロジェクトにおける見積もりのバランス感覚を養うためのゲームを作りたかったので極めて狭いターゲットに絞り込みました。
ターゲットとするプレイヤーのイメージは以下に絞りました。
- IT業界、とりわけ受託開発を行っている業態
- プロジェクトの要件定義や見積もりを行った経験がある人
- 今後見積もりなどをやることになりそうな人
- ボードゲーム趣味には最近目覚めた(目覚めそう)
- あまり複雑すぎるゲームはまだちょっと……な感じ
- 職場の人や同業者同士でプレイする
- 長い時間はあまり取れない
- 1時間で数回遊べるくらいのボリュームがいい
IT業界の知識はある
フレーバー部分の解説は少なくともプレイヤーの誰かは知っているものとしてバッサリと省きました。
フレーバーはゲームを盛り上げる重要な要素ではありつつも、過剰にしてしまうとゲームの情報量を増やしてしまい導入の妨げになると考えました。そのためターゲット外の方にとっては極めて不親切になりますが「そもそもターゲット外の人はプレイしないだろう」と割り切り、知っているものとして扱うことにしました。
実際に即売会などで手にとったくださった方の様子を見る限り、フレーバーの理解についてはほぼ問題ないように思えました。
ボードゲーム自体はそこまでやりこんでいない
いろいろなボードゲームを遊ぶ経験が増えていくと「あっちのゲームのこの要素、こっちのゲームのこの要素」といろいろな要素を取り入れたくなってしまいますが、ボードゲームに慣れていないプレイヤーにとってはインストで30分も1時間もかかるようなゲームは遊ぶ候補にしてもらえないと考えました。
イメージとしては
- 既存のゲームのルールに類似していること
- 「○○(誰でも知っているゲーム)っぽいゲームです」と言えること
- カルカソンヌやチケトゥラレベルでも誰でも知っているゲームではない
- 「○○(誰でも知っているゲーム)っぽいゲームです」と言えること
- ルールが極力シンプルなこと
- インストが5〜10分でできること
- 業務後の会議室でさっとやれること
- 仕事の雰囲気から極端に逸脱しないこと
- フレーバー大事
- ゲームシステムはもちろん大事ですが、全面に出すのは興味を惹くフレーバー
狙ったポイント
ここまでの内容を考えていく上で狙っていたポイントは
- 基本は狭く深く刺さること
- 少なすぎない不特定少数
ということです。
ターゲットを絞った分、狙ったターゲットには必ず刺さるものであることを目指しました。通常であれば避けるべき内輪ネタ(業界ネタ)を交えることも積極的に行っています。また、矛盾したようなことを書いていますがターゲットを絞ったといえども「受託開発中心のIT企業に勤める人口」は少なくないです。2017年時点で約62万人、そのうち要件定義や見積もりに関わりそうないわゆる高度情報処理技術者はそのうち25万人以上になります。ゲームマーケット2018秋の2日間の延べ来場者数が22,000人であったことを考えると狙うパイとしては決して小さくはないと考えています。
参考: IT人材白書2018:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
辛いポイント
逆に辛いポイントも出てきています。
国内の受託開発中心のIT企業に絞り込んだせいで海外展開が実質狙えない状態です。海外の詳しい事情を把握しきれていないというのもありますが、知る限りでかなり国内とは異なっています。国内でのITシステム開発を風刺する要素なども多々含めましたが、国外では何をいっているのかわからないというものも多そうです。ある意味日本文化に特化してしまっていますが、いわゆる和風ではないので国外からの興味は惹かなそうです。
また狙っているパイはそれほど小さくはないと思っていますが、25万人のうち1%の2,500人が潜在的なプレイヤーであると考えたときに、現状500個販売し在庫がほぼ払底していますが次の500個を作ってよいのかどうかはかなり不安があります。
1つ1つのゲームを長く供給していくためにも、このあたりの課題の解決に今後は取り組んでいかないといけないと考えています。
さてダラダラとまとまりなく書き連ねてしまいましたが、このあたりで締めたいと思います。今後もこちらのブログでデザインノートなどを公開していきたいと思っていますのでFeedの登録や、ブックマークなどしていただければ幸いです。
明日[2]は@yutaka_88さんのボードゲームデザイン|タイル配置におけるパズル要素です。