ボードゲームデザインと製造コスト - undefined
この記事はBoard Game Design Advent Calendar 2019の6日目です。
昨日はカズマのボードゲーム日記さんの「テーマドリブンでつくる」でした。
本日[1]は遊戯部すずき組のクマの方、MooMoo-yaがゲーム制作時に意識している製造コストについて書いてみたいと思います。
ちなみに去年のアドベントカレンダーでは「ターゲットについて考える」という記事を書いていました。
背景というか遊戯部すずき組の紹介
遊戯部すずき組はITをネタにしたゲームを2人で制作している同人サークルです。代表作とさせていただいているのは以下の2作です。
- COLOR CODE
- WEBで使うカラーコードを読み上げて色を取るカラーコードかるた
- Fat Project
- 要件定義をモチーフとしたブラックジャック風カードゲーム
私 MooMoo-ya はこのうち Fat Project を制作しました。来年あたりには累計販売数が4桁に到達しそうです、ありがとうございます。
これまでの総作品数は5作。拡張版も入れると9作制作しています。
同人アナログゲームを作ることについて
こと同人(≒趣味)で作っている限りにおいては「趣味で作っているので製造コストとか気にしないよ」というのも間違いではないと思っていますし、同じサークルのペンギンの方、AHAはどちらかというとコストとか気にしないタイプです。
とはいえ趣味といえどもお金もかかるので、売上で次回作の印刷代をまかなえるならそれはそれで助かるし、とりわけクマの方の私は商人気質もあるので原価率とか損益分岐点とか考えてしまいます[2]。
これまで9作を制作してきて調べたり考えたりしてきましたので、他の制作者様のお役に立てればと想います。
本記事の前提
1ロット1,000セット製造できるような大手の話はわからないので、1ロット50〜500セットくらいをターゲットとして書きます。
販売もゲームマーケットでの手売り+Boothなどのオンラインストアでの委託販売を想定。
製造コストを決める要素
まず製造コストを決める要素は何でしょうか?
それは
- 製造数
- コンポーネント
- 外注費
- 広告費
の4点になると思います。それぞれに作り手の思いや制約がかかりながら作っていくことになると思います[3]。
製造数
カード少なめのカードゲームで50セットが最低ラインの目安だと思ってください。知る限り少部数であれば
- 萬印堂様[4]の
小ロット応援印刷パックベーシックパック - @グラフィック様のトレーディングカード印刷
- ポプルス様のカードセット オンデマンド
などが少部数制作で利用できると思います。これらの印刷業者さんを利用すればカード枚数12〜36枚くらいで箱、説明書込みで50セット25,000〜45,000円(@500〜900円)くらいで作れます。
しかしこれらはすべてカードゲームの場合です。各種トークンや、ゲームボードを含む場合については工夫が必要になってきます。自分で箱詰めするのが厳しくなってくる300〜500個くらいになるとカードゲームは梱包まで印刷業者にお願いできるようになるので比較的作りやすくなってくると思います。
反面、ゲームボードやトークンを利用したゲームを作るとなると1ロットで300個、できれば1000個くらいの製造でないと業者まかせでの製造は厳しく、それ以下だと自分で箱詰めすることで頑張ることになってくると思います。
コンポーネント
一番悩ましいのがコンポーネント選定です。
溢れ出るアイディアを実現するためにゲームを作ろうと思ったときに、昨今のゲームのコンポーネントが豪華になっているのもあり、特に初めてゲームを作る方はとても豪華なゲームを想像する人も多いのではないでしょうか。
ざっくりと以下のような仕様のゲームを作る場合を試算してみます。コンポーネントを見る限りだと、まあドイツゲームでよくありそうな仕様です。
- カード 80枚
- ゲームチップ 80枚
- 木製キューブ 80個
- ゲームボードA3二つ折り 1枚
- 化粧箱 A4
- 説明書 A4 12ページ
この仕様で50セット作った場合、ざっくり原単価5,000円弱になってしまいます、売値で8,000〜10,000円……危険です、やめましょう。ちなみに150セットまで作れれば原単価が大きく減り3,800円ほどになるのでもう少しなんとかなりそうですが、同人でやるにはちょっと大掛かりです。コンポーネントの見直しをしたほうがいいかもしれません。
外注費
少部数のうちは外注する余裕はないです。うちもまだやったことはありません。
ただメインヴィジュアルだけ外注するとかはありかもしれません。メインヴィジュアルはパッケージアート、ポスター、チラシなど複数に使えるでしょうし、やっぱりイラストの力は強いと思います。
イラストの力で150〜300セット以上の販売が見込めるようになるなら上手な方に依頼する場合でも50,000円くらいからお願いできたりするっぽいのでありかと思います[5]が、最初は考えなくてもいいと思います。版権フリーの無料素材とタイポグラフィーだけでもなんとかなります。
宣伝費
正直うちは宣伝に力入れていないのでなんとも言えないのですが、イベント前にTwitter広告とかはありかもしれません。ただ最初は考えなくてもいいかな。
ゲームの形態によるざっくりとしたコスト感
ここまででもちらほら概算を出していますが、まとめてみます。
枚数少なめのカードゲーム
- 1セット30枚くらい
- 1ロット50セット
- 原単価 500〜900円
枚数多めのカードゲーム
- 1セット80枚くらい
- 1ロット50セット
- 原単価 1500円くらい
- 1ロット150セット
- 原単価 1250円くらい
カード以外のコンポーネントを含むカードゲーム
カード以外のコンポーネントに何を入れるかによりますが、
- 木製キューブ 1個 10円
- ダイス 1個 30円
- ミープル 1個 50円
くらいで考えておくといいと思います。海外通販で数百〜千個単位で仕入れればもう少し(数円〜10円くらい)安くなると思います。
中箱ボードゲーム
A4サイズのコンポーネント多めのゲームで先述の通り
- 1ロット50セット
- 原単価 5,000円
- 1ロット150セット
- 原単価 3,800円
この中箱を制作するケースの工夫を考えていきたいと思います(やっと本題)。
本当に必要なコンポーネント
ある程度複雑なゲームを作ろうと思うとどうしてもコンポーネントは増やさざるを得ないです。原価を下げようと思えば極端な話すべてをカードで表現することで原価を抑えることは可能です……が、直感的なルールの理解を助けるためにカード以外のコンポーネントは必要になってきます。
とはいえ(ゲームシステムやフレーバーだけじゃなく、コンポーネントのリッチさという意味でも)同じ楽しさであれば、できるだけ原価が安い=安く買える方が遊んでもらいやすいし、ゲームデザイナーとしても多くの人に遊んでもらえたほうが嬉しいと思います。
ではどうするかというと、表現するものに対してイメージするコンポーネントを安っぽさを感じさせず、プレイアビリティを下げずに置き換えていくことが必要になると思います。
コンポーネントの置き換え
たとえばスコア記録にコインなどのチップを利用すると大量のチップが必要となりコスト増になります。しかしゲームボードの中にスコアボードを載せることでマーカー1つで表現できるようになります。これはゲームボードの周囲を使うなど、今までたくさんのゲームが採用している定番の方法ですね。
さらにゲームボードもプレイヤー共有の1つのボードではなく、各プレイヤーが持つボード+共有ボードという形にすることで大判カード印刷として作ることができれば更にコストを下げることが出来るかもしれません。
逆に1つのゲームボードの代わりに、カタンやカルカソンヌのように複数のチップを組み合わせることでコストを下げることも出来るかもしれません。
譲れない一線
とはいえ「勝利条件を満たすことで掛け金をぶんどる」というプレイ感を出したい場合にはスコアボードではなくコインチップをほかプレイヤーからもらったほうが盛り上がると思いますし、プレイヤー間で干渉しあうワチャワチャ感を出すなら共通の大きなボードが良いと思います。
なのですべてを置き換えていくのではなくゲームのプレイ感として何に重きをおくのかという優先順序を定めることで、本当に必要なコンポーネントに絞り込み、優先度が低い部分は簡略化して原価を下げつつ、メリハリをだしてより良いゲームに仕上げていくのが(特に同人ゲームデザイナーの)腕の見せどころなのかな、と思います。
まとめ
やたらと時間をかけて書いた割には当たり前の結論になってしまいましたが、コンポーネントの選定は単純にコスト削減だけではなく、プレイ感を左右する大事な要素です。
コンポーネントの選択がゲームデザインに影響することもあるので、ゲームデザインとコンポーネント選定は行き来しながら検討していく要素なのかなと考えています。あまりすべてをリッチにしすぎても重視したいポイントがボケてしまいますしね。
新作ゲームはある程度の規模のゲームにするつもりなので頑張って考えていこうと思います。
明日は梟老堂さんの「ゲーム制作における3つの着想方法 (前編)」です。